最新更新日
04/05/11

男子校概論
著者:欺瞞

 

はじめに
 私は12歳から18歳までの多感な時期を男に囲まれて過ごしてきた。「別にクラスメートが男だけだっただけで、共学と変わんないよ」と思っていたが、心無い人々から「男子校ってホモだらけなんでしょ?」などという暴言を吐かれ、傷つくことも多々ある。そこで今回は男子校の生活を紹介し、男子校に対する偏見を根絶するための一助としたいと思う。
1.調査地概要
 今回の調査地である私立K中・高校(以下、K校)は、東京都の西南部に位置する完全中高一貫教育を掲げるガッチガチの男子校である。大学への進学実績がよいためか、東京をはじめ、近隣の神奈川県、千葉県、埼玉県からも生徒が集まる。中学入学時には試験があり、受験生たちは小学4年生ぐらいから塾に通ったり、毎週日曜日に模試を受けたりしている。K校に通う生徒たちはそういった受験戦争をくぐりぬけてきたお子様どもなので、それなりにヘンサチが高く、家庭も高い学費を払えるだけの余裕があるような「こざかしいお坊ちゃま」タイプが多いといえるだろう。
 
2.男子校生の一生
(1)1・2年生
 入学試験に合格した生徒たちは期待に胸を膨らませて入学してくる。生徒たちは中学受験の反動でまったく勉強をしなくなり部活にいそしむ。ここで部活に馴染めなかった生徒たちはクラスの主流から置いていかれ、「不良」「オタク」「登校拒否児」のいずれかに属さなければならなくなる。
 入学時には志望校に合格したことに浮かれているが、性の目覚めにともない周囲に異性がいないことに気づきはじめる。女性との接触は小学校の同級生に街で会うくらい。モテの貧富差はない。

(2)3・4年生
 「不良」「普通」「オタク」「登校拒否児」という分化がすすむ。「不良」や「普通」の中でもイケてる人たちに彼女ができ始め、中の下以下は大いにあせる。「別にオレがモテないわけじゃない。出会いがないだけだ!」が合言葉。モテの貧富差くっきり。
 ここでは各身分について言及しておきたい。各身分の特徴は以下のとおりである。
○不良
 「1軍」と「2軍」に大別できる。1軍に所属するものは全体の約2%。彼らは渋谷や下北沢のチームに所属し、センター街のあたりでパー券やステッカーの販売に従事している。学校では口が悪いくらいでおとなしい。
 2軍に属するのは全体の10%程度。不良というより不良のまねをするコスプレイヤーである。学校では騒いだり、悪ぶって先生に反抗したりするので性質が悪い。彼らや「普通」の中でもモテ系の人々はなぜか近隣の女子高とつながりがあり定期的に「合コン」を開いていたようである。
○普通
 前述の「こざかしいお坊ちゃま」タイプの人たちである。全体の約50%を占める。基本的になんらかの部活に属している。世間知らずのくせにプライドが高く、人を小ばかにしたような態度をとる。「Fェリス」「T京女学館」「Y浜雙葉」(いずれも東京・神奈川地区の女子校)などの言葉に激しく反応する。
○オタク
 いわずと知れたオタクである。全体の4割弱を占め「普通」に次ぐ勢力であるが、4、5人の小集団に別れ、オタク同士の横のつながりが希薄である(もしくは敵対している)ためにマイノリティに甘んじている。
 ところでこの「4割弱」という数は一般の共学校よりかなり多いと思われる。この理由としては@高校受験がないため、趣味に集中できる、A女子の目がないため趣味に集中できる、Bお坊ちゃんが多いので金がある・・・といったことがあげられるように思う。「男子校になぜオタクが多いのか」というのは非常に興味深い問題ではあるが、今回の「男子校概論」のテーマからは逸脱してしまう。そこで今回は示唆にとどめておく。

(3)5・6年生
 「不良」も「普通」も「オタク」も大学受験対策にいそしむ。とりあえず皆、東大を目指す。
 「オタク」の間にあきらめムード(「悟り」とも呼ばれる)漂う。同級生である鉄道マニアは「男子校でいいよなぁ・・・。女の子の目を気にしなくていいから趣味に打ち込めるし。共学でモテないのと男子校でモテないのじゃ、男子校のほうが気楽だよ・・・」と時刻表に目を落としながら語っていた。その目は負け犬のそれと同じであった。

3.年中行事
(1)入学式(4月)
 校長が100%の確率で「3F精神」の話をする。1年生はまじめに聞いているが2年生以上は「またかよー」ってな感じで苦笑である。

(2)遠足(5月)
 毎年、キツめの登山である。4年生のときの遠足は山登りというより崖のぼりであった。

(3)体育祭(5月)
 K校の年中行事の中でもっとも盛大に行われるのがこの体育祭である。1年生のときに赤・白・青・黄の4組に振り分けられる。この組は6年間かわらず、その色に対する忠誠を誓わせられる。体育祭の一ヶ月前から組ごとに集められ、長ランを着た6年生が1年生に対して「団長は絶対」「返事は「ハイ」じゃねぇ。「押忍」だ!」「気合い入れろ!」と指導する心温まる光景が学校中で見受けられる。
 こうしたマインドコントロールの結果、本番までには応援の振り付けや応援歌を完璧に覚え、さらには「団長のためなら死ねる」思想を植えつけられる。彼らは各競技で気合い入った行動を見せる。体育祭で行われる主な競技は以下のとおりである。
○この橋渡るべからず
 バットを額につけて3回回った後、平均台をダッシュで渡る。気合いが入っていると目が回った状態でも50mを7秒切れる、と団長は言っていた。
○俵かつぎ競走
 ふつうの100メートルリレー。しかしバトンが30キロの米俵。
○カンガルー競走
 紐でつながれた2枚のズタ袋を穿き、ピョンピョン跳ねながら前に進む。のどかな名称とは裏腹に大変腹筋に負担がかかる。同級生の鈴木君の腹筋が裂けた。
○大井川渡し
 4人でみこしを担ぎその上にさらに人が乗ったまま行うリレー競走である。カーブで曲がりきれずクラッシュするみこし多数。校庭に救急車が入ってきた。驚いた。
○騎馬戦
 騎馬戦では「膝を正面から狙う」「安全靴を履いて脛を蹴る」などのワザが先輩から伝承される。事実上、頭突きもアリなのでバーリトゥードよりもラディカルな格闘技であるといえる。
○棒倒し
 失明者が出たため20年ほど前に中止になった。その失明者は現在、K校で古文教師をしている。伝説の男である。
 
・・・などなど。いずれも相当の気合いを必要とする競技であり、体育祭は男子校ならではの年中行事であるといえるだろう。また体育祭では「デコレ」と呼ばれる10m四方の大きな看板のようなものに、各色にちなんだキャラクターを描く。体育祭における数少ない文化系活躍の場である。

(4)水泳大会(9月)
 当然、「男だらけ」である。念のため。

(5)文化祭(9月)
 体育祭が体育会系の学生を中心に執り行われるのに対し、文化祭は文化系の祭典である。ブラスバンド部、日本の城研究会、科学部、物理部などの有力文化部は本気で「勝ち」にいく。ここで言う「勝ち」とは文化祭のお客さんの投票によって選ばれる「大衆賞」を獲ることである。有力文化部はこの大衆賞を獲るために一年間かけて準備しており、その本気度はかなり高い。したがって共学校にあるような「ねえねえ、みんなでダンスやろうよ。クラTつくろ」とか「おーい、男子。作業で遅くなったから女子送ってけ」「え〜、アンタが送るのぉ」「しょーがねーだろ、帰る方向一緒なんだから・・・。まあ、お前も一応オンナだからな」「もう、なによ!」・・・なんつってるヤカラとは気合いが違う、気合いが!文化祭の当日にはブラバンのOBが部長の左ほほに気合いを注入する姿を見ることができる。
 また文化祭では他校の女子がこぞってやって来るので、モテない組でなおかつ部活をしていない者は色めきたつ(モテる組はあらかじめ彼女や女友達を連れてきている)が、まったく何も起こらず、ショボい思いを味わうことがほとんどである。

(6)12月24・25日
 まったく普通の日である。コタツに入りながら母親と年末特番を見たり、ガンプラを作ったりする。

(7)2月14日
 上に同じ。モテない組の間では「山本周五郎(作家)の命日でしょ?」という小粋なジョークが交わされる。せつない。そうやって忘れたフリしてるのに学食のおばちゃんに突然チロルチョコ渡されたりするとせつなさ倍増である。

(8)卒業式
 覚えてないなあ。そんな程度のもの。中高一貫なので、特に中学の卒業式は「あれれ?」という間に終わってしまう。

4.女子について
 当たり前のことだが、男子校には女子がいない。つまり学校と家の往復をしている限り、女子との接触はない。しかし彼女がいる奴もいる。彼らは主に合コンという手段で女子と接触する。
この合コンには「二重のランク付け」が存在する。まず一つ目のランクとは学校のランクである。各男子校、女子校には確実にランクが存在するのである。そのランクは偏差値や校風(お坊ちゃん・お嬢ちゃんorヤンキー)、地理的条件(渋谷、横浜などのおしゃれスポットへのアクセシビリティ)、評判などを総合的に判断して決められるようだ。もう二つ目のランクとは校内におけるランクである。男子校にはモテ度ランクが存在するが、それは女子校も同様である。
このようなランクに従い、合コンはセッティングされるのである。つまりランク高めの女子校のモテ系女子高生には、やはりランク高めの男子校のモテ系男子高校生があてがわれ、それなりの男子はやはりそれなりの女子としか合コンできないのである。ちなみにこのような合コンシステムはK校では「不良」グループと「普通」グループの中でもランク上位の人々に適応されるのみであり、「オタク」グループには全くもってフェアリーテールである。
このシステムは男子校、女子校の多い東京地区特有のものであり、このシステムが男子校内のモテ貧富差を助長しているといえるだろう。

おわりに
「ああ!青春!人は一生にひと時しかそれを所有しない。その残りの年月はただ思い出すだけだ」とはフランスの作家、アンドレ・ジード(1869〜1951)の言葉である。私もこのレジュメを書きながら青春時代を思い出した。・・・甘酸っぱくない、むしろ酸っぱ臭い青春時代を。でもぜんぜん後悔してないね。だって楽しかったもん。共学に通って『タッチ』の南ちゃんみたいな女子マネと付き合ったりしてる奴は呪われろ。
男子校、フォーエバー。




 



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