最新更新日
03/10/13

「調査にまつわる怖い話・不思議な話」第一夜
著者:一目かの子

  御嶽とは沖縄県域・奄美諸島におけるいわゆる聖地のことである。御嶽以外にもおがみ山・ムイ・グスク・ウガン・オン・スクなどと呼ばれている。ここでムラの御願や個人の御願を行い、神に祈願するのだが、不心得者には厳しい罰が与えられる場所でもある。ここでは私を含めた御嶽に悪さをしてギャフンと言わされた例を挙げたいと思う。

例1
 これは20年ほど前の話である。
 「神も仏も信じない」タイプの男性(当時30歳・県外人)が典型的な沖縄の女性(当時24歳)と付き合っていた。彼は御嶽の話しや御願の話を彼女から聞いていたが、迷信としてとりあわず、ある日彼女を後ろに乗せたまま御嶽にバイクで突っ込んだそうだ。彼女は大慌てでユタを呼び御願をするべきだと主張したが、彼は全く気にせず、あまつさえ御嶽の石を蹴飛ばしたという。
 その3日後、仕事で海中の橋げた工事をしていた彼は、仕事がまさに終わろうとしたときに空気が送られて来ないことに気づいた(このころはボンベではなく船から空気をホースで送るタイプの潜水法だった)。驚いた彼は救難信号をバディに送ったがバディもどうしようもない。空気を求めて30メートル以上も一気に浮上し九死に一生を得たが、その後3年余り潜水病に苦しんだという。浮上中朦朧とする意識の中で「バチじゃ〜!!」という声を聞いたとか聞かないとか…。
 その時付き合っていた女性は急に「奴は死んだな」と感じたらしい。ヒヌカンやその御嶽に御願をして命を救ってくれるように必死で頼んだそうだ。
 その後元気になった彼は改心し、一日十五日の御願や屋敷の御願を行い、御嶽を見ると手を合わせるようになったという。

例2
 これは復帰前の話である。
 酔っ払ったオジサンが「怖いものなど何にもない」ような気分になり、那覇市の某御嶽で元気よく粗相をしたそうだ。し終わった瞬間御嶽の背後から信じられないほどデカイ黒い犬が威嚇しながら出てきた。驚いたオジサンは「殺される!!」と感じ、全速力で逃げ出したという。その後ろを着かず離れずの状態で、その黒い犬が追いかけてきて、オジサンはだいたい20分近く逃げ回ったそうだ。その現場を見た現地住人は「酔っ払いが奇声を上げて走り回っていた」と話していた。その黒い犬はオジサンしか見えなかったらしい。どれだけ走ったか分からなくなり、「食われる…」と諦めかけたとき、後ろを振り向いたら犬は跡形もなく消えていたそうだ。
 そのオジサンはその後酒を飲むときには家以外で飲まないようにしているという。

例3
 これは実際私が体験した話である。
 数年前、宮古諸島のある島に同級生(新津ゆうた氏)と2人で調査に行った。集落内の御嶽や墓などを見学し、祭祀を司る女性に話を聞くことが目的だった。集落に到着し、宿を取る前にタクシーで御嶽に行った。鬱蒼とした森の奥に拝殿があるとタクシーの運転手が言っていたので、拝殿に行き、写真を撮り、御嶽内を散策した。もちろん御嶽に対して礼儀は尽くしている。私は沖縄で育ち、御嶽やユタにも慣れ親しんでいたので、それなりに御嶽に対して畏敬の念は持っており、このときにも那覇式の挨拶を行い、御礼を言って御嶽を後にした。
 そのあと祭祀を司る女性のお宅へ向かった。運良くお会いすることができ、色々話を聞いているうちに、先ほど入った御嶽の話になった。その御嶽は「ツカサ(祭祀を司る女性)が一緒じゃないとはいれない。ツカサと一緒でもネとサルの日以外には入れない」と言われた。もちろん先ほど入ったときにツカサは一緒じゃなかったし、ネとサルの日でもなかった。言われた途端「ヤバイ!!」と思ったが、今さらツカサに言える状態でもなく、ビクビクしながら宿へ帰った。
 その晩、宮古諸島に台風がやってきた。そのため外に出られる状況ではなく、宿で新津氏とビールを飲みながらワールドカップ観戦とトランプに興じていた。酔っ払い、御嶽のことなど忘れたかのようだった。
 しかし深夜、突如として発熱・咳・嘔吐に見舞われる惨事となった。その上波の音のような、話し声のような幻聴が聞こえ出し、ぼんやり白いものが浮かんでいる幻覚まで見え出した。怖さと辛さで「バチかもしれない」と泣いている私の横で、同じように御嶽に入り(しかも土足!)、挨拶もせず、写真を撮りまくった新津氏が心配していた。彼は全くどうにもなっていなかった。
 次の日の朝、台風はまだ宮古諸島に留まっていたが、これ以上宮古にいたら死んでしまうと判断し、飛行機で沖縄に戻った。それから3日間の闘病生活を送り、現場復帰を果たしたが、「御嶽に勝手に入ったものは必ず非礼を詫びに戻ってくる」というツカサの言葉が未だに耳について離れない。

例4
 これは3ヶ月ほど前の話である。
 高校3年生の男子が、日頃から親に石敢当や御嶽に対して悪いことをするなと教え諭されていた。彼は人並みに信心深かったが「もし悪いことをしたらどうなるのだろう」という好奇心に勝てず、石敢当に向かって粗相をした。その途端折れるはずのないその石敢当が倒れてきて、彼は手を挟まれ複雑骨折した(全治3ヶ月との噂)。
 彼からその話を聞いた母親はビックリして石敢当にお詫びの御願を行い、その石敢当を修復したらしい。しかし彼は日頃から抱いていた疑問が氷解し、満足気だったそうだ。


 以上が私が聞いた「調査にまつわる怖い話・不思議な話」である。まだまだたくさんあるが、今回はここまでにしておく。あまりこのような話を書くと後が怖いからである。
 これを読んで「まっさか〜」とか思っている方、「オバケなんてないさ、オバケなんて嘘さ〜♪」なんて思っている方、気をつけないと明日はわが身となりますよ。




戻る