最新更新日
03/07/13

獅子舞とエイサー
著者:一目かの子

■図1 獅子舞


 沖縄県内の集落では少なくとも年に一度、大きな行事が行なわれる。沖縄本島であれば、それは夏のさなかに行われることが多い。大学に入って以来あちこちの行事を見てきたが、行事のなかの芸能に変化が表れているように思う。

 行事の際に行なわれる芸能で現在最も盛んなのはエイサーである。多くの集落においてエイサーが導入され、青年会活動の一環として練習し行事の際に大々的に踊られている。確かにエイサーは「沖縄」的で勇壮である。

  そして何より演出が派手で踊っている人たちが心底楽しんでいるように感じる。実際不良(いわゆるヤンキー)たちが必死になって練習し団結している姿を見ると、エイサーの吸引力について考えさせられる。日頃団体行動などせず、規律も守らないような青少年でもエイサーの練習のときには遅刻もせず、上下関係もきちんと守る。それはみんなで一つのことを行う楽しさもあるだろうが、話を聞いて見ると「エイサーはかっこいいから」練習するし、規律も守るのだそうだ。そのような話を聞くとエイサーの魅力は踊っている本人が「自分はかっこいい」陶酔できるところにあるのだと思ってしまう。

 その吸引力を見こしてあちこちの青年会でエイサーを取り入れているようだ。エイサーを始めてから青年会への参加率が格段に上がったところも多いという。 

 しかしエイサー以外の芸能を「伝統」として保持している青年会ではエイサー導入に難色を示す場合も多い。私が知っているのは獅子舞を青年会活動(とは言ってもかなり年配の方も獅子舞に参加している)として行っている集落の例である。

 沖縄の獅子舞は日本本土とは異なり、顔と前足部分を担当する人と尻尾と後ろ足部分を担当する人の二人一組で棕櫚で作られた獅子舞の着ぐるみのようなものを被って演舞される。獅子舞は中腰を基本とする激しい動きや「ワザ」と呼ばれるいくつかの「伝統的」な動き、約3分の演舞に耐えられる体力を要求され、一人前になるのに少なくとも5年はかかるとされている。また組織は完全な年功序列で、年上ほど「ワザ」が上手く権力も持っている状況である。

 そのような組織でなぜエイサーを導入しないのかというと、「エイサーは簡単に上達するし、派手だし、顔が出るから子供たちがエイサーしかしなくなる」からだそうだ。たしかにエイサーは獅子舞に比べ簡単に上達する。

 少なくとも5年頑張らなくては一人前になれないということはないだろう。また派手で顔が出るところが子供たちにウケるというのもよくわかる。「沖縄」的な大音量の音楽に合わせて揃いの派手な衣裳を身に纏って踊るのは青少年にナルシシズムにぴったりあうと思う。このエイサーの手軽さと派手さは地道に練習し「ワザ」を習得しなくては一人前になれない獅子舞を行う青年会にとって脅威なのであろう。

 去年の旧暦8月、この集落の行事を見に行った。何度も見ているせいか「ワザ」の良し悪しや、動きのキレなどを見てに入るマニアックな自分がいた。その舞台では他集落の客演でエイサーも披露されていた。「やっぱりエイサーは派手でかっこいい」と感じた。それに比べて獅子舞は「ワザ」キレの違いを見ない限り、どれも同じに感じる地味さがあるように思った。

 しかし私はエイサーよりも獅子舞のほうが断然好きだし、この集落のエイサーを取り入れない姿勢が大好きである。



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