5.衣
寮生の衣装は「よそいき」と「普段着」に大別される。よそいきはヨレヨレのTシャツ、短パン、島ぞーりといった格好であり、寮内ではかなりフォーマルな格好である。普段着は大概トランクス一枚、通称「パンいち」である。パンいちで行動できる範囲は通常の場合、寮の敷地内に限られるが、ある話者によれば「パンいちで北口ホッパーまで買い物に行った人がいた」という。
洗濯はユニットごとに洗濯機と乾燥機が備え付けてあるのでそれらを利用する。洗濯物を洗濯機などに入れたままにしておくと、次に洗濯機を使用したい人が勝手に前の人の洗濯物を取り出し洗濯してしまう。そのため洗濯物がなくなるといったトラブルが絶えない。
6.食
寮生は全く自炊をしない、完全外食派が多い。外食派は連れ立ってさまざまなところにごはんを食べに出かけるが、もっとも利用頻度が高いのは琉大北口の「きたや」、宜野湾市長田の「キングターコス」の2店である。
寮生の中でもフトコロぐあいの厳しいものは自炊をする。自炊派の主食は何と言っても米であり、金のないときには白米だけをモリモリ食べる。自炊はユニットごとに設けられている共用キッチンで行う。多くの寮生(特に上級生)がキッチンの流し台に残飯を直接流すなどの残虐行為を繰り返すにも関わらず、流し台の掃除をしたり、汚れた食器を洗ったりする者は一部に限られるため相当な異臭が漂っている。
またキッチンの水は「ものすごく不味い」と評判である。私の先輩は入寮したての頃、寮の水道水を飲みジンマシンが出たという。「貯水槽が汚いのではないか」といううわさである。
キッチンには共用の冷蔵庫も備え付けられているが、ほとんどの寮生が自室に小型冷蔵庫を所有している。共用冷蔵庫も掃除や整理をほとんど行わないため2、3年前の豚肉が出てくるということもしばしばである。余談ではあるが野菜を冷蔵庫内で1カ月ほど放置するとスープ状になるようである。またこれも余談だが、私が1年生のとき冷蔵庫の掃除をした際に、製氷機の中にヤモリの死体を発見し、非常にブルーな気持ちを味わったことがあることを記しておく。
7.住
居室はすべて個室であり、広さは9.28uである。前述の通り、ユニットごとに共用のリビングルーム、キッチン、洗面台、トイレ、洗濯機、乾燥機といった設備がある。またユニットによってはユニットの廊下やリビングまで土足のところもある。各部屋には机、いす、ベッド、ロッカーなどが備え付けられている。しかしそのような設備をすべて部屋に入れるととても狭くなってしまうため、分解して外に出してしまう寮生も多い。また室外機付きのクーラーは設置することが禁じられているため、多くの寮生が扇風機と除湿機で沖縄の厳しい夏を凌いでいる。
寮に帰ってきても、個室にいる者はまれであり、大概の者がリビングでゲームをしたり、ビールを飲んだりしながらダラダラしている。また個室といえども鍵をかけることはほとんどない。「鍵をかけてはいけない」というきまりがあるユニットさえ存在する。それにも関わらず、寮生の中には「ドアをノックする」という概念は無いので、プライバシーはあまり守られない傾向にある。
8.人生儀礼(寮生の一生)
(1)1年生
ほとんどの寮生は1年生のとき、入学と同時に入寮する。多くの者はリビングの汚さ、便器の黄ばみ、破天荒な先輩などに閉口し、「寮を出よう…」と心に誓うが1カ月もすれば寮の環境にもなれ、いっぱしの寮生となる。ここで馴染めなかった者はかなり早い段階で退寮する。
1年生は先輩のパシリとして使われる一方、先輩たちから可愛がられると「いろいろおごってもらったりして、オイシイ」という。
(2)2年生
毎年ある入寮審査の中でも1年生から2年生に進級する際の審査が最も厳しく、多くの者が寮を出される。その審査をくぐり抜けた者だけが寮での生活を送ることができる。
多くのユニットでは、2年生の中からユニット長と会計を選出する。2年生はユニットの実質的な雑用係といえる。
(3)3、4年生
3、4年生になるとユニットの雑務から開放され、1年生をパシリとして使い、非常に快適な寮生活を送ることができる。「もう寮以外の普通のアパートでなんて生活できない!」という彼らにとって怖いのは、突然の退寮勧告のみである。
(4)OB
在学中に入寮審査で寮を出された人や、卒業とともに退寮した人たちの中にもしばしば自分が以前住んでいたユニットを訪れる者がいる。彼らは別に自分の家があるにも関わらずユニットに入り浸り、中にはリビングや空き部屋に勝手に住み着いてしまう者までいる。恐らく彼らはアパートでの生活や社会人としての生活の中で淋しさや物足りなさを感じ、ユニットに入り浸るのだろう。
9.年中行事
(1)新歓(4月)
4月に新入生が入寮してくると歓迎の行事が開かれる。共用棟では寮役主催の新歓ダンスパーティーが開かれるが、メインは何と言っても各ユニットで開かれる飲み会である。参加者は新入生、ユニットに住む寮生、OBであり、合計20人ほどである。
飲み会で飲まれる酒は「残●の黒」、「久●仙のグリーン」、「菊●露ブラウン」などの泡盛で、泡盛の中でも一般的に「臭く、飲みにくい」と言われる銘柄である。このチョイスについては「1年生に美味しい酒はまだ早い!」という上級生の思惑が働いているものと思われる。
しばらく普通に飲んだ後、「自己紹介タイム」が始まる。まず大きなヤカンやタライに泡盛の水割りをつくっておく。そして紙コップにその水割りを注いだものを大量に準備しておく。これはスムーズにイッキに移行できるようにとの配慮である。1年生から順に「名前」「所属学部・学科」「出身地」「高校時代の部活」などをしゃべる。その際に自己紹介している人と内容がかぶると起立しイッキしなければならない。例えば誰かが「法文学部人間科学科で…」という自己紹介をしたら、その場に人間科学科の人はみんな起立しイッキさせられるのである。このような自己紹介を出席者全員が行う。この日初めて泡盛を飲む者が多い1年生は自己紹介が終わる頃にはベロベロになっている。
自己紹介はそれだけでは終わらない。次は「新入生が先輩の名前を覚えたか」という確認をするために、1年生は先輩の名前をフルネームでそらんじなければならない。もし途中で間違えたり、詰まったりしたらその場で「チョンボ」ということになりイッキさせられる。また間違えずに最後まで行けたとしてもなんだかんだと難癖をつけられて結局イッキさせられるのである。
自己紹介はまだまだ続く。その後には先輩から新入生に「女子寮の皆さんにも自己紹介をしておけ」という命令が下る。まずは2年生の中で先輩の指名を受けた者、またはじゃんけんで負けた者が手本として女子寮の皆さんにご挨拶をする。その挨拶の形式を以下に記す。
「女子寮の皆さんこんばんは。私は○○学部○○学科○年次、○○○○(名前)と申します。女子寮の皆さんに一言物申す。・・・」
これをユニットのベランダから女子寮に向かって、ありったけの大声を振り絞り、叫ぶのである。2年生の手本の後は1年生が順次挨拶を行う。このときに挨拶をとちったり、はずしたりした場合には当然イッキである。
このような自己紹介タイムを終えると、1年生は大概酔いつぶれている。酔いつぶれた1年生は先輩に担がれ、自室のベッドまで運ばれる。その際に枕の周りに新聞紙を引き、ゴミ袋を置いておく。寝ゲロ防止のためである。
このような新歓飲み会を通じて先輩方に酔った自分をさらけ出すことにより、新入生は本物の寮生になっていくのである。
(2)飲み会(いつも)
リビングでは常に誰かしら飲んでいるので突発的に飲み会が始まることもある。また「前期終了お疲れさま会」や「忘年会」などと称し、計画的に飲み会が開かれることもある。このような計画的な飲み会は全員参加が基本であるが、月日がたつにつれてメンバーが固定されてくる。飲み会に参加しない者は他の寮生と疎遠になり「寮離れ」(「その他の習俗」の項参照)が進む。
(3)フリマ(7月)、寮祭(12月)
フリマ、寮祭は共に寮役主催のイベントである。寮の共用棟で開催されるが、参加する寮生は少ない。
(4)琉大祭(11月)
琉大祭のときに、出店を出すユニットもある。下級生は上級生の指示に従い、馬車馬のように働かせられる。また琉大祭に参加しないユニットでは琉大祭休みをもてあまし、毎日のように飲み会が行われる。
(続)
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