はじめに
寮生以外の琉大生にとって「寮」とはどのような存在であろうか。全体で5000人以上いるという琉大生の中で寮に暮らす者は500人ほどであり、琉大生の約10人に1人は寮生であるという計算になる。またその他にも現在は寮を出ているものも、寮に住んでいたことのある学生もいる。そういったことを考えれば、たとえ寮に住んだことが無くても寮生の友人・知人がいる確立は非常に高いと言えるだろう。また寮はキャンパス内にあるので距離的にもごく近い。
では寮は身近な存在といえるだろうか。寮を身近と感じている学生はごくわずかであろう。寮は他の学生にとって「なんとなく入りにくい」「用が無ければ近づかない」場所であり、1度も寮を訪れないまま大学生活を終える者も少なくない。
本稿の目的はそのように「近くて遠い」寮の実態を詳らかにすることにある。我々は「民俗研究クラブ」であるからして、その目的を実現するために民俗学における調査項目に利用し、寮生の生活・文化について聞き取り調査を行った。聞き取りの対象となったのは民研に所属する寮生・元寮生3名である。またかく言う私も昨年まで2年間寮に住んでいたので、そのときに見聞きした事例も記している。以下はその調査結果を項目ごとにまとめたものである。琉大において寮生及び寮での生活を理解するための一助となれば幸いである。
なお、前述の話者及び私は全員男性であり、住んでいる(あるいは住んでいた)寮も当然男子寮である。また女子寮は男子寮に比べて部屋数も寮生自体も少ないため、今回女子寮生から女子寮に関することを聞き取ることはできなかった。そこで今回は「寮生の民俗」というタイトルではあるものの、男子寮における生活・文化に限定して述べざるを得なかったことをお断りしたい。
1.調査地概要
千原(せんばる)寮は琉球大学千原キャンパスの一角(西原町字千原59番地)に立地しており、500人ほどの寮生が生活をしている。寮は鉄筋コンクリート造りで居室はすべて個室になっている。ただしリビング、キッチン、洗面室、トイレなどは共同使用になっている。また共用棟と呼ばれる建物には事務室、大学生協の売店、共同のシャワー室がある。
家賃は月4300円(混住棟を除く)であり、水道料、燃料費、電気料とあわせ月1万円ほどの出費である。これらの経費は月1回、銀行口座から引き落とされる。
入寮を希望する際には事務室による審査が行われる。ここでは実家からの距離や両親の所得などを基に審査を行い、この審査に合格した者だけが入寮できる。
寮には全国津々浦々から様々な人々が集まってくるが、ある話者によれば「男子寮には九州出身者、理系の学部所属の者が多い」という。九州出身者が多い理由は、琉大自体に九州出身者が多いからである。また理系の学生には県外出身者が多い、男子学生が多いという傾向があり、そのような学生たちが寮に入るために寮には理系の学生が多いという。
2.村落組織
千原寮はまず男子寮と女子寮に大別することができる。男子寮は南星棟、海邦棟、北辰棟、混住棟(男子)という4つの棟から構成される。一般的に男子寮の各棟にはカラーが存在すると言われている。南星棟はいつもやかましく、「もっとも男子寮らしい棟」とされる。逆に北辰棟は静かな人が多く、海邦棟はその中間であるというイメージを持っている寮生が多いようだ。ちなみに混住棟の「混住」とは留学生と日本人学生が混住している、という意味であるらしい。もっとも混住棟以外の棟に留学生が居住することも多々ある。混住棟は「ユニット」(ユニットについては後述)ごとにシャワーがついているそうで、家賃も他の棟に比べて数百円高い。
それぞれの棟は5階建てで、さらにA、B、Cの3つに分かれている(海邦棟のみA、Bの2つ)。つまり南星棟のAの5階は「南星A―5」、北辰棟のBの2階は「北辰B―2」というように呼ばれる。「南星A―5」「北辰B―2」などはひとつの生活の単位となっており、「ユニット」と呼ばれる。
各ユニットには個室が12室ある。またユニットごとにリビング、キッチン、洗面室などを共有しており、ユニット内でのつながりは非常に強い。逆にたとえユニットが1階違いであったり、隣あったりしていたりしても、各ユニット同士のつながりはほとんどない。
ほとんどのユニットには「ユニット長」と「会計」という役職があり、多くの場合は2年生がそれらを務める。ユニット長は事務室から呼び出しがあった場合に対応したり、備品(事務室から支給されるトイレットペーパー、蛍光灯など)を取りに行ったりする係である。また会計の仕事はユニット費の徴収である。ユニット費はユニットで購読している新聞、マンガ雑誌(ジャンプ、サンデー、マガジンの3誌が主流)の購読料、共用で使う物の維持費、ユニット規模の飲み会の費用などに充てられる。ユニット費はユニットによって差はあるものの、概ね一人当たり月1000円ほどのようだ。貧乏でかつタチの悪い先輩からユニット費を徴収することは困難を極めるため、会計は非常にストレスのたまる重責である。が、一方では「会計には査察など一切無く、余裕で着服できる」という意見も聞くことができた。
1年生の中で掃除当番を決め、1週間ごとにローテーションで掃除を行うユニットもある。彼らの仕事はリビング、台所などの掃除、ごみ捨てなどであるが、月日が経つにつれ機能しなくなるケースが多い。ちなみにトイレや階段などは月1回、掃除のおばさんが清掃に来てくれる。
男子寮のユニットの中でももっとも有名な「南星B―4」、通称「ナビヨン」だろう。ナビヨンは代々男子寮の「寮役」を司っているそうである。寮役は寮生の代表として寮生と寮事務室のパイプ役を務める一方、「新歓ダンスパーティー」、「寮祭」(「年中行事」の項を参照されたし)を主催する。
3.生業
主な収入源は仕送り、バイト、奨学金であり、他の県外生と変わりない。しかし一部の寮生は「スロット」を生業としており、彼らは「スロッター」と呼ばれる。スロッターはスロットに勝つとやたらにおごってくれるので、スロッターが多く生息するユニットではスロッターにたかって生活していくことも可能である。
4.交通交易
移動手段は原付、バイク、自転車を利用するものが多い。中でも原付は簡単に免許を取得することができ、価格も手ごろなので寮生たちから愛されている。たまに近所のやんちゃな中学生が原付や自転車の部品を盗むことがあるので、何らかの自己防衛手段が必要となる。
寮生が自家用車を所有することは禁止されているが、その禁を破る者も少なくない。車は高価なため、寮を出て行く先輩から譲り受けたり、同じユニットの者数名でシェアしたりする場合が多い。そのように受け継がれた車が多いため、寮の東隣りにある駐車スペースには思わず「走るのか?」と疑問を投げかけたくなる車も止まっている。また車の所有者は他の寮生のアシとして便利に使われる。
日々の買い物は近所の北口ホッパー(ホットスパー)、サンエー我如古店、長田店(沖縄県内のスーパーチェーン)、ユニオン(24時間営業のスーパー)、少し遠出をして沖国大前のかねひで(これも沖縄県内のスーパーチェーン)などで行うことが多い。ユニットで飲み会を計画しているには西原のアルテックまで酒類の調達に行く。また週末には車に便乗して美浜に買い物にいったり、意味も無く西原のニューマン(ホームセンター)をブラブラしたりするそうである。
(続)
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