1.神酒とは何か
神酒とは「神饌」として用いられる酒のことである。以下に南島各地の神酒の名称・神酒が誰によって造られ、いつ用いられるかについて述べたい。
(1)名称について
沖縄本島および周辺離島では、神酒のことを「ウンサク(ウンサフ・ウンチャク・ウナシャク・ンサグ)」または「ミキ(ミチ)」といい、久米島・八重山などでは「ミシャク(ミシャグ)」、また宮古では「ンキ(ンク・ンツ)」などと呼ぶのが一般的である。
(2)誰によって造られるか
神酒を造るのは、
@各戸の主婦
A数個の主婦が1年交代の輪番制で造る
Bムンチュウ(門中)ごとにムートゥ(宗家)で、ムンチュウの女性が輪番制で造る
C女性神職者(ノロ・ツカサ)の家で造る
D区長・書記・幹事などムラの行政担当者の家で主婦が造る
E区長や村頭が公民館で造る
といった具合に様々である。因みに醸造に要する経費は、戸別に造る場合を除いては、一人当たりか戸別に3勺ないし1合の米(粟・大麦)・または金銭が徴収される(字費でまかなう場合もある)。
(3)神酒はいつ用いられるのか
現在では村祭に供えられることが多い。以下に、「とても簡単に」主な村祭の説明をしておく。
・シヌグ…収穫が済み、次の新しい農作に移る前に行われる祭り。期日も内容も地域差があり、一般化するのは困難であるが、共通しているのは駆邪儀礼が含まれるということである。
・ウンジャミ…旧暦7月に名護以北で行われる海神祭の総称。ウンジャミの目的は、主にニライ・カナイの神をことほぎ、村人への加護を願うことにあるという。
・ウマチー…沖縄諸島で稲麦に関わる4つの祭り。旧暦2月(麦の初穂祭)・3月(麦の大祭)・5月(稲の初穂祭)・6月(稲の大祭)に行われる。明治以後は各月の15日に定日化。
・プールィ…八重山諸島で旧暦6月中に行われる、稲・粟の収穫儀礼。収穫物の感謝祈願と、来年の予祝祈願を行う。米・粟で造った神酒を供え、いただく。
・シツィ…節替りに行われる。収穫感謝と来る年の豊作を祈願する、南島の「正月儀礼」である。宮古では粟の収穫最盛期である旧暦5月〜6月の甲午(きのえうま)の日に行われ、八重山では旧暦8月〜9月の己亥(つちのとい)の日に行われる。
※現在では麦二祭(2月・3月ウマチー)は、あまり行われなくなった。さらに特筆しておけば、そもそも今回の企画『神酒を造ろう・飲もう』をたてようと思ったのは、5月ウマチー(今年の新暦では6月14日にあたりました)の時期であったということからだ。
2.神酒の種類
『沖縄大百科事典』によれば、近代まで神酒は造り方によって3種類に分けられていたという。その種類を以下に挙げる。
(1)原料を煮て冷まし、別にとっておいた生の原料を女性が容器に噛み入れ、容器を密閉して醸す(「口かみの酒」)。神酒としては3日後に用いられた。
(2)原料を煮て冷まし、それに生の原料(主に大麦の粉)を入れて発酵させた酒。
(3)生の原料の代わりに麹を入れて発酵させた酒。
近年(およそ明治以降)では(1)を造る村はなく、村祭に供えられる神酒は(2)や(3)のタイプである。しかしながら現在は、「神酒の代用品」としてヨーグルト・カルピス・ネクター・ヤクルト・玄米ドリンクなどを用いる集落も少なくはない。中村氏は、このような神酒の代用品に関し、「「白色でどろどろとしていて甘い(甘酸っぱい)もの」といういわゆる一般的な神酒イメージの中で各地域が「どの点を重視し、どの点を妥協するのか」という」点において取捨選択をした結果、現在のような代用品のバリエーションが生まれたのではないだろうか」〔中村:2002〕と考察している。読者諸氏はどのように考えるだろうか。
参考文献
沖縄大百科事典刊行事務局 編 1983 『沖縄大百科事典』 沖縄タイムス社
中村友美 2002 「ミキの代用品」 『民研通信』第3号 琉球大学民俗研究クラブ
平敷令治 1990 『沖縄の祭祀と信仰』 第一書房
|