最新更新日
03/07/13

神酒を作ろう2003(前編)
著者:犬

 以下の記録は、2003年6月12日に行われた『神酒を造ろう・飲もう』という企画の全貌を明らかにするものである。
 告白しておくと、この『神酒を造ろう・飲もう』という呪われた企画は、去年の5月下旬にも行われていた。我々は、複数部員が1年前に(某集落に伝わる方法で)醸してみた神酒の、あの味も香りも忘れ、今年も「・・・やっちゃう!?醸しちゃう!?」ってなノリで本企画を再びたててしまった。
 しかしここで『神酒を造ろう・飲もう2003』の本編に入る前に(ホントにちょっとだけ)マジメに、「沖縄における神酒」について述べておきたい。企画の本編は、『神酒を造ろう・飲もう2003〜今度こそ打ち止めにしてください〜後半』で改めて紹介したい。
沖縄の神酒

1.神酒とは何か

 神酒とは「神饌」として用いられる酒のことである。以下に南島各地の神酒の名称・神酒が誰によって造られ、いつ用いられるかについて述べたい。
(1)名称について
 沖縄本島および周辺離島では、神酒のことを「ウンサク(ウンサフ・ウンチャク・ウナシャク・ンサグ)」または「ミキ(ミチ)」といい、久米島・八重山などでは「ミシャク(ミシャグ)」、また宮古では「ンキ(ンク・ンツ)」などと呼ぶのが一般的である。

(2)誰によって造られるか
 神酒を造るのは、
@各戸の主婦
A数個の主婦が1年交代の輪番制で造る
Bムンチュウ(門中)ごとにムートゥ(宗家)で、ムンチュウの女性が輪番制で造る
C女性神職者(ノロ・ツカサ)の家で造る
D区長・書記・幹事などムラの行政担当者の家で主婦が造る
E区長や村頭が公民館で造る
といった具合に様々である。因みに醸造に要する経費は、戸別に造る場合を除いては、一人当たりか戸別に3勺ないし1合の米(粟・大麦)・または金銭が徴収される(字費でまかなう場合もある)。

(3)神酒はいつ用いられるのか
 現在では村祭に供えられることが多い。以下に、「とても簡単に」主な村祭の説明をしておく。
シヌグ…収穫が済み、次の新しい農作に移る前に行われる祭り。期日も内容も地域差があり、一般化するのは困難であるが、共通しているのは駆邪儀礼が含まれるということである。
ウンジャミ…旧暦7月に名護以北で行われる海神祭の総称。ウンジャミの目的は、主にニライ・カナイの神をことほぎ、村人への加護を願うことにあるという。
ウマチー…沖縄諸島で稲麦に関わる4つの祭り。旧暦2月(麦の初穂祭)・3月(麦の大祭)・5月(稲の初穂祭)・6月(稲の大祭)に行われる。明治以後は各月の15日に定日化。
プールィ…八重山諸島で旧暦6月中に行われる、稲・粟の収穫儀礼。収穫物の感謝祈願と、来年の予祝祈願を行う。米・粟で造った神酒を供え、いただく。
シツィ…節替りに行われる。収穫感謝と来る年の豊作を祈願する、南島の「正月儀礼」である。宮古では粟の収穫最盛期である旧暦5月〜6月の甲午(きのえうま)の日に行われ、八重山では旧暦8月〜9月の己亥(つちのとい)の日に行われる。
※現在では麦二祭(2月・3月ウマチー)は、あまり行われなくなった。さらに特筆しておけば、そもそも今回の企画『神酒を造ろう・飲もう』をたてようと思ったのは、5月ウマチー(今年の新暦では6月14日にあたりました)の時期であったということからだ。


2.神酒の種類

 『沖縄大百科事典』によれば、近代まで神酒は造り方によって3種類に分けられていたという。その種類を以下に挙げる。

(1)原料を煮て冷まし、別にとっておいた生の原料を女性が容器に噛み入れ、容器を密閉して醸す(「口かみの酒」)。神酒としては3日後に用いられた。
(2)原料を煮て冷まし、それに生の原料(主に大麦の粉)を入れて発酵させた酒。
(3)生の原料の代わりに麹を入れて発酵させた酒。

 近年(およそ明治以降)では(1)を造る村はなく、村祭に供えられる神酒は(2)や(3)のタイプである。しかしながら現在は、「神酒の代用品」としてヨーグルト・カルピス・ネクター・ヤクルト・玄米ドリンクなどを用いる集落も少なくはない。中村氏は、このような神酒の代用品に関し、「「白色でどろどろとしていて甘い(甘酸っぱい)もの」といういわゆる一般的な神酒イメージの中で各地域が「どの点を重視し、どの点を妥協するのか」という」点において取捨選択をした結果、現在のような代用品のバリエーションが生まれたのではないだろうか」〔中村:2002〕と考察している。読者諸氏はどのように考えるだろうか。

参考文献
沖縄大百科事典刊行事務局 編 1983 『沖縄大百科事典』 沖縄タイムス社
中村友美 2002 「ミキの代用品」 『民研通信』第3号 琉球大学民俗研究クラブ
平敷令治 1990 『沖縄の祭祀と信仰』 第一書房

 

前編のおわりに

 ・・・さて、ここまでは「沖縄の神酒」についての軽いイントロダクションである。理性的で賢い人間はここで「じゃーさー、実際造ってみりゃいいんじゃねーのー?せっかく(?)神酒について調べて、いろいろ知ってんだしさー。」とは言わないだろう。「神酒についてはここまでで十分です。神酒で遊ぶようなマネをする奴等は呪われろ。」と、ごもっともなお考えを持つ方は、後編(企画の本編)を見ずにどうぞお帰り下さい・・・。しかしながら我々がどのような路を辿り、どんな天罰(自業自得)が下ったのか少しでも気になるという殊勝な方はどうぞ後編も御覧下さい。

・・・了




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